その偽物は、どこから来ているのか
偽の浄水カートリッジは中国で作られている、というニュースを見ました。 本当なのか、自分で見てみました。答えはあっさり出ました。 中国の通販サイトを開くと、LIXIL の純正と同じ型番を書いた商品が、 商品説明に「本製品は中国で製造されており」と書いたまま、1,269円で日本に売られています。 一方の LIXIL は、純正カートリッジをすべて国内の自社工場で一貫生産していると公表しています。 この2つが並んだことで、買う前に使える判定がひとつ増えました。
AliExpress で、普通に売られていた
見に行ったのは AliExpress です。アリババグループが運営している、 中国から海外の消費者に直接売る通販サイトで、日本語で表示され、日本円で買えます。 「浄水器 カートリッジ」で検索したら、すぐ出てきました。
商品名は「キッチン蛇口フィルターカートリッジ JF-K10/K11/K12用 交換用活性炭フィルター」。 JF-K10・JF-K11・JF-K12 は、LIXIL の純正浄水カートリッジの型番です。 オールインワン浄水栓に付けるもので、私が引っかかったのと同じ系統の製品です。 価格は1,269円。元値1,788円の29%OFFと表示されていました。
そして商品説明には、こう書かれています。
「本製品は中国で製造されており、品質管理を徹底した製品です。 コストパフォーマンスに優れ、日常使いに最適な選択肢です。」
隠されてはいません。商品ページにそう書いてあります。 「中国から来ている」のかどうかを確かめるのに、特別なことは何も要りませんでした。
一方、純正は全部、日本の自社工場で作られている
ここが今回いちばん効いたところです。 前の記事に書いたとおり、私が自分の買ったものを疑ったきっかけはテレビCMでした。 「リクシルの水は、まねできない。」という30秒のCMです。 あらためて見直したら、判断に必要なことが、この30秒に全部入っていました。
「セラミックフィルターを搭載した独自の浄水カートリッジは、国内生産、全数検査。 確かな安心を直接お届けするために、公式通販サイトのみで販売しています。」
画面にも「国内生産・全数検査」「公式通販サイトのみで販売中」と表示されます。 映っているのは、セラミックを焼く窯、フィルターを1本ずつ並べる手、 白衣とマスクで完成品を目視検査している人。工場の映像です。
どこで作っているか、どこで売っているか。 CMが言っているのは、ほぼこの2つだけでした。 逆に言えば、偽物と本物を分けるのはその2点だということです。 気になって公式サイトも見に行ったら、製造のほうはもっとはっきり書いてありました。
「すべての製品の研究開発・製造・組み立てを国内の自社工場で行っています」
(LIXIL Newsroom、2025年5月1日)
「セラミックフィルターの製造、活性炭のブレンド、そして浄水カートリッジの組み立てに至るまで、
自社の国内工場で製造・組み立てを実施」
「国内の自社工場で一貫生産されています」
(LIXIL 浄水栓ポータルサイト「浄水カートリッジのヒミツ」)
工場は、旧INAX創業の地である愛知県常滑市の LIXIL 半田工場。 2020年からは、開発・研究・製造・評価までを一貫して行う 「X-Water Fab とこなめ」という施設も稼働しています。 セラミックフィルターを焼くところから、活性炭を混ぜるところ、組み立てまで、全部そこでやっている。
つまり、こういうことになります。
LIXIL の純正浄水カートリッジで、中国製のものは存在しません。 だから「純正品」「正規品」と書かれた LIXIL のカートリッジの商品ページに、 原産国・製造国として中国と書いてあったら、その時点で純正ではありません。 現物を見る必要も、届くのを待つ必要もありません。
前の記事に書いた「そのメーカーがどこで売っているかを見る」に続いて、 商品ページだけで完結する判定が、もうひとつ手に入りました。
※ 製造国が書かれていない商品ページも多くあります。書いていないこと自体は違反ではありません。 使えるのは「中国製と書いてあるのに純正品を名乗っている」という矛盾を見つけたときです。
純正と並べると、値段以外もおかしい
さきほどの出品には「カラー」という選択肢があって、 JF-K10、JF-K11、JF-K12 の3つから選ぶようになっていました。どれを選んでも1,269円です。
ところが、この3つは純正では別々の製品です。 LIXIL の公式通販に載っている中身は、こうなっています。
| 型番 | 純正の価格 | 除去できる物質 | 交換の目安(3〜4人) | 製造 |
|---|---|---|---|---|
| JF-K10(エコノミー) | 7,370円 | 5+1物質 | 6か月 | 国内自社工場 |
| JF-K11(スタンダード) | 9,570円 | 12+1物質 | 6か月 | 国内自社工場 |
| JF-K12(ハイグレード) | 6,490円 | 15+3物質・高塩素除去 | 3か月 | 国内自社工場 |
| AliExpress の互換品 | 1,269円 | 記載なし | 記載なし | 中国 |
純正は都度注文の税込価格(別途送料770円)。LIXILストアの表示にもとづきます。
純正では、除去できる物質の数も、値段も、交換の周期も違う3種類です。 それが互換品では、同じ値段の「色違い」になっています。 中身が3種類作り分けられているのかどうかは、私には確かめようがありません。 ただ、性能で値段を分けているものを色の選択肢にしてしまっている以上、 作り分けられていると考える理由も見当たりませんでした。
「安心してご使用いただけます」と書いた本人が、責任は負わないと書いている
同じ商品ページには、こうも書かれていました。
- 「正確な互換性で、安心してご使用いただけます。」
- 「活性炭フィルターは、水中の塩素や不純物を効果的に除去し、より安全で快適な飲用水を実現します。」
いかにも安心できそうな文章です。そしてこの文章の真上に、こう添えられています。
「本コンテンツはAI生成であり、販売者の見解を反映するものではありません。 プラットフォームおよび販売者は関連する法的責任を負いません。」
安心してくださいと書いているのは、販売者の見解ではない。AIが書いた文章で、誰も責任を負わない。 塩素を除去すると書いてある根拠も、どこにも示されていません。 これが1,269円の中身なのだと思います。
メーカー自身が「中国での生産拠点の摘発」と書いている
偽物を作っている側の話も、裏が取れます。しかも報道ではなく、被害を受けた側が自分で出している文章です。
LIXIL は2024年9月27日の発表で、それまでに講じてきた模倣品対策を並べています。 大手ECサイトと連携した削除活動、純正品の直販化、税関での差し止め。そこにこう書かれています。
「中国での模倣品生産拠点の摘発」
自社の生産は全部国内でやっている会社が、中国の生産拠点を摘発している。 作られている場所がどこなのかは、これで十分はっきりしていると思います。 2025年11月の発表会を取材した記事には、 模倣品のほぼすべてが中国からの流入だという説明も載っています。
税関の数字でも、8割が中国から
日本に入ってくる偽物全体ではどうなのか。これは財務省が毎年公表しています。 2025年(令和7年)の輸入差止実績は31,760件。そのうち 中国を仕出しとするものが26,292件で、82.8%でした。 2位のベトナムが2,785件(8.8%)なので、桁がひとつ違います。
※ これは知的財産侵害物品全体の数字で、浄水カートリッジだけの数字ではありません。
売られている場所についても、名指しの公表があります。 米国通商代表部(USTR)が毎年出している「Notorious Markets List(悪名高い市場リスト)」の 2025年版には、中国に本拠を置く通販プラットフォームとして 淘宝(Taobao)、DHgate、拼多多(Pinduoduo)、抖音商城(Douyin Mall)が載っています。
混ぜてはいけないところ
中国で互換品を作って売ること自体は、違法でも何でもありません。 日本の正規メーカーの製品も、多くが海外で生産されています。 問題になるのは、他社の商標を無断で使うことと、 「純正品」「正規品」と名乗りながら、そのメーカーが作っていないものを売ることです。
今回見た AliExpress の出品は、LIXIL の型番を互換の対象として書いているだけで、 LIXIL の純正品だとは名乗っていません。これは偽物ではなく互換品です。 だから、この出品そのものが違法だという話ではありません。
私が問題だと思うのは、同じものが日本の通販サイトに来たときに 「正規品」という言葉をまとってしまうことのほうです。 前の記事に書いた LIXIL の調査結果が、そこを示しています。 調べられた互換カートリッジ81製品のうち、商標を無断使用した模倣品は11製品。 残り70製品は法律上は問題のない互換品でした。 それでも81製品すべてが浄水能力の基準を満たしていませんでした。
ここからは私の意見です
資料の話はここまでです。ここから先は、調べたうえでの私の判断なので、そのつもりで読んでください。
互換品ショップの責任者や所在地が中国になっているところを、私は信用していません。 製造国の話ではなく、何かあったときに連絡が取れるかどうかの話です。 届いたものが表示どおりでなかったとき、相手が国外の事業者だと、返金も交換も現実には進みません。 1,269円なら諦めもつきますが、飲み水に使うものでそれを引くのは割に合わないと思っています。
では日本の事業者なら安心かというと、そうも思いません。 中国の通販サイトから個人輸入したものを、日本の通販サイトで転売している日本人の商売が、 かなりの数あります。売っているのが日本人でも、箱から出てくるものは同じです。
日本の会社名と日本の住所が書いてあると、それだけで身元が確かなように見えます。 私も、そう見ていました。でも、身元が確かなことと、 その人が何を仕入れているかは、別の話です。 日本の事業者であることは、届く品物の中身を何も保証していませんでした。
それでも、販売元は買う前に見られる
通信販売では、事業者名・所在地・連絡先の表示が法律で義務づけられています。 商品ページから2クリックで開けます。
- Amazon — 商品ページの「販売元」の店名をクリックすると出品者のページが開きます。 そこの「詳細な販売者情報」に、事業者名と事業所の住所があります。
- 楽天市場 — 商品ページを下までスクロールすると 「会社概要」「特定商取引法に基づく表記」へのリンクがあります。
- Yahoo!ショッピング — ストアのページから「会社概要」を開きます。
ただし、上に書いたとおり、日本の住所だったから安心という読み方はしないほうがいいです。 私が見るのは次の2つになりました。
- 表示そのものがあるか。 見当たらない、連絡先が繋がらない、住所を検索しても実体が出てこない。こういう場合のほうが、はっきりした手がかりになります。
- 話の筋が通っているか。 直販限定の商品を別の事業者が「正規品」として売っている。国内自社工場で作られている製品が「中国製」と書かれている。この手の矛盾は、売り手が誰であっても答えが出ます。
調べてみての結論
「中国で作られている」は本当でした。商品ページに自分でそう書いてあるものが、実際に日本へ売られています。 メーカー自身が中国の生産拠点を摘発し、税関で止められた偽物の8割強が中国からで、 米国政府も中国の通販サイトを名指ししています。
そのうえで、今回いちばん役に立ったのは、そこではありませんでした。 純正がどこで作られているかを、メーカー自身が公表していたことです。 すべて国内の自社工場だと書いてある。だから「中国製」と書かれた純正品は存在しない。 これは商品ページを見るだけで確かめられて、しかも言い逃れができません。
買う前に使える手が、これで2つになりました。
- そのメーカーがどこで売っているかを、メーカー自身のサイトで確認する。直販限定なら、通販サイトに並んでいる時点でおかしい。
- そのメーカーがどこで作っているかを確認する。国内生産だと公表しているなら、中国製と書かれた「純正品」は純正ではない。
どちらも、現物を鑑定する必要がありません。買う前に、商品ページとメーカーのサイトだけで終わります。
そして情けない話ですが、この2つは、あのCMが30秒で言っていたことそのものでした。 国内生産、全数検査、公式通販サイトのみで販売。 私はそのCMを見て「自分のは大丈夫か」と思ったところまでは合っていたのに、 そこに答えまで書いてあったことには気づいていませんでした。
この記事で使った資料
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【LIXIL】浄水カートリッジ「リクシルの水は、まねできない。」30秒(LIXIL Corporation 公式チャンネル)
私が自分の買ったものを疑うきっかけになったCM。「国内生産・全数検査」「公式通販サイトのみで販売中」と表示されます。
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業界一の長寿命を誇るLIXILの浄水カートリッジ 天然素材の抗菌セラミックフィルターで広がる水の可能性(LIXIL、2025年5月1日)
「すべての製品の研究開発・製造・組み立てを国内の自社工場で行っています」。「X-Water Fab とこなめ」についてもここに書かれています。
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浄水カートリッジのヒミツ(LIXIL 浄水栓ポータルサイト)
「国内の自社工場で一貫生産されています」。セラミックフィルターの製造から組み立てまでの範囲が書かれています。
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“安全・安心”は徹底的にクリーンな自社工場から生まれる(LIXIL 住み人オンライン)
製造している LIXIL 半田工場(愛知県常滑市)の中の様子。
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オールインワン浄水栓用【JF-K1系】(JF-K10 / JF-K11 / JF-K12)浄水カートリッジ(LIXILストア)
純正3種類の価格・除去物質数・交換目安。上の表はここの表示にもとづきます。
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「浄水カートリッジ模倣品撲滅宣言」を発出(LIXIL、2024年9月27日)
対策のひとつとして「中国での模倣品生産拠点の摘発」が挙げられています。
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日本の飲み水が危ない 中国の「偽カートリッジ」、60万個規模に LIXILの防衛戦略とは(AdverTimes.、2025年11月21日)
2025年11月の発表会の取材記事。「模倣品のほぼすべてが中国からの流入」との記述があります。
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令和7年の税関における知的財産侵害物品の差止状況(詳細)(財務省、2026年3月6日公表)
輸入差止件数31,760件のうち、中国を仕出しとするものが26,292件(82.8%)。
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2025 Review of Notorious Markets for Counterfeiting and Piracy(米国通商代表部、2026年3月3日/英語)
オンライン37件・実店舗32件を掲載。中国に本拠を置くプラットフォームが複数挙げられています。
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「浄水カートリッジ模倣品・互換品の注意喚起に関する発表会」を開催(LIXIL、2025年11月19日)
互換品81製品のうち模倣品が11製品、81製品すべてが浄水能力の基準未達、という調査結果の出どころです。
被害を受けた側のメーカー名と、公的機関が公表している資料は、出典リンクを添えて書いています。 読者が自分で裏を取れないと意味がないからです。 一方で、出品者名・ストア名・互換品メーカー名は出していません。 特定の事業者を告発することが目的ではないからです。 商品ページの写真も載せていません(撮影者の著作物にあたるため)。 引用したのは、商品ページに書かれている文章と数字だけです。 詳しくはこのサイトについてをご覧ください。