気づかないまま、何か月も使っていた
Amazon で「正規品」と表示されていた LIXIL の浄水カートリッジを、6千円ほどで買いました。 見た目では本物かどうか分からず、そのまま何か月も使っていました。 おかしいと思ったきっかけはテレビCMで、調べてみると、LIXIL は浄水カートリッジを 自社の直販サイトでしか売っていませんでした。 つまり Amazon で買えた時点で、それは LIXIL が売ったものではなかったということです。 最後は残留塩素の試薬で確かめました。水はピンクになりました。
「正規品」と書いてあったから買った
キッチンの浄水栓のカートリッジが交換時期になり、買い替えようと探しました。 Amazon に出ていて、商品ページには「正規品」と書かれていました。 価格は6千円ほどで、それなら、と注文しました。
このとき私は、疑うという発想を持っていませんでした。 大手の通販サイトで、「正規品」と書かれたものを買う。 これのどこに問題があるのか、当時は思いつきませんでした。
違和感はあった。でも確信は持てなかった
届いたパッケージを見て、なんとなく違和感がありました。 ただ、それは「なんとなく」でしかありません。 手元に比べられる純正品があるわけでもなく、前に使っていたものの箱も残っていませんでした。
そして浄水カートリッジは、いったん取り付けてしまえば中身が見えません。 蛇口をひねれば水は出ます。その水がきちんと浄水されているかどうかは、 飲んでも、見ても、分かりません。
壊れて動かなければ、その場で気づけます。 でもこの手の製品はちゃんと動いてしまう。 水は出るし、見た目も普通です。 機能していないことだけが分からない。だから何か月も使い続けられてしまいます。
気づいたきっかけはテレビCMだった
しばらく経ってから、LIXIL が浄水カートリッジの模倣品に注意を呼びかけている CM を目にしました。そこで初めて、自分が買ったものを疑いました。
そして公式サイトを見に行って、決定的なことを知りました。
LIXIL はカートリッジを直販でしか売っていなかった
LIXIL は、模倣品が出回っていることを受けて、 2023年4月1日から浄水カートリッジの販路を公式ECサイトに限定しています。 店舗でもショールームでも売っておらず、正規品が買えるのは 公式通販の「LIXILストア」だけです。
これを知った時点で、答えは出ていました。 Amazon に並んでいる時点で、それは LIXIL が売ったものではない。 商品ページに「正規品」と書かれていようと、現物を鑑定するまでもありませんでした。
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弊社ブランドを騙った浄水カートリッジの粗悪品(偽物)が販売されています(LIXIL)
2023年2月1日公表。材質や形状が異なり記載された物質を除去できないこと、寿命が短いこと、水栓に入らない場合があること、健康被害の可能性などが挙げられています。誤って粗悪品を購入した場合も補償はできない、とも書かれています。
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LIXIL INAX浄水カートリッジ 悪質な模倣品にご注意ください(LIXILストア)
正規品と模倣品の比較や、正規の購入方法が案内されています。
現物を鑑定する必要はありません。 そのメーカーがどこで売っているのかを、メーカー自身のサイトで確認する。 それだけで、買う前に判断がつく場合があります。 直販に限定している商品が通販サイトに並んでいたら、その時点でおかしいということです。
「正規品」「純正品」は、誰にとっての正規品なのか
引っかかったのは、商品ページの「正規品」「純正品」という表示です。 私はこれを「LIXIL の正規品」という意味だと読みました。 しかし、その言葉はそこまで書いていません。
調べた範囲では、互換品を作っているメーカーが自社の製品を「純正品」と表記している ケースがあるようです。自社が作った製品という意味でなら、言葉としては嘘ではない。 ただ、買う側が受け取る意味はまったく違います。
※ 個々の出品がどういう意図でその表記を使っているかまでは、私には確認できていません。 ここは推測を含みます。確実に言えるのは、「正規品」「純正品」と書かれていても、 それが誰にとっての正規品・純正品なのかは書かれていない、ということです。
残留塩素の試薬で確かめた
公式サイトの情報で状況は分かりましたが、 自分が使っていたものが実際にどうだったのかを確かめたくなりました。 そこで、残留塩素を調べる試薬を買いました。
浄水器を通した水に試薬を入れると、はっきりとピンク色になりました。 残留塩素が残っているということです。 浄水カートリッジの基本的な役割のひとつが塩素の除去なので、 これは機能していないことを意味します。
残留塩素の試薬は、数百円から手に入ります。 浄水器を通した水と、通していない水道水の両方で試して、色が同じなら、 そのカートリッジは塩素を除去できていません。 「なんとなく怪しい」が、目に見える結果に変わります。
LIXIL の調査では、81製品中81製品が基準を満たしていなかった
自分のものが機能していなかったのは分かりました。 では、これは運が悪かっただけなのか。そうではありませんでした。
LIXIL は2025年11月に、互換品の性能調査結果を公表しています。 販売数の多い上位63ストアが扱う LIXIL 用の互換カートリッジ81製品を調べたところ、 81製品すべてが浄水能力の基準を満たしていませんでした。 そのうち11製品は、LIXIL の商標を無断使用した模倣品だったとされています。 非正規品は推計で約60万個が購入されているとも公表されました。
内部構造にも違いがあり、正規品がセラミックを使っている部分に、 布のような素材が使われているものもあったとのことです。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 調査対象 | 販売数上位63ストアが扱う LIXIL 用互換品 81製品 |
| 浄水能力の基準を満たした製品 | 0製品(81製品中81製品が未達) |
| うち商標を無断使用した模倣品 | 11製品 |
| 非正規品の推計購入数 | 約60万個 |
LIXIL が2025年11月19日の発表会で公表した内容にもとづきます。
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浄水カートリッジ模倣品・互換品の注意喚起に関する発表会(LIXIL、2025年11月19日)
上記の調査結果が公表された発表会の記録です。
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非純正・互換品浄水カートリッジに関する注意喚起のお知らせ(LIXIL、2023年7月27日)
純正浄水カートリッジとの比較検証の結果が公表されています。
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取引デジタルプラットフォーム上で販売されている浄水カートリッジの模倣品に関する注意喚起(消費者庁、2023年2月1日/PDF)
メーカーだけでなく、消費者庁も通販サイト上の模倣品について注意喚起を出しています。
「模倣品」と「粗悪な互換品」は別の問題
調べていて整理がついたのは、この2つが違うものだということです。
- 模倣品は、メーカーの商標やロゴを無断で使い、そのメーカーの製品だと見せかけて売られているもの。商標権の侵害にあたります。
- 互換品は、他社が「これに対応します」として作った別物。これ自体は違法ではなく、世の中には十分に使える互換品もあります。
ところが浄水カートリッジについては、調査された81製品のうち模倣品は11製品で、 残りの70製品は模倣品ではない「互換品」でした。 それでも81製品すべてが浄水能力の基準を満たしていなかった。
つまり、商標を無断で使っているかどうかという法律上の区別と、 その製品が役目を果たすかどうかは別の話でした。 買う側にとって困るのは、後者の方です。
返金は申請していない
正直に書くと、私は Amazon に何も言っていません。 気づいたときにはすでに何か月も使った後で、 いまさら言っても仕方がないだろうと思ってしまいました。
いま振り返ると、返金は諦めるにしても、 その出品を報告することだけはしておくべきでした。 報告が積み上がれば、同じものを次に買いそうになっている人が減ります。 自分の6千円は戻らなくても、それはできたはずでした。
もしこの記事を、買ってしまった直後に読んでいる人がいたら、 早めに動いてください。手順は 相談・通報できる窓口にまとめました。
今なら、買う前にこうする
- メーカー公式サイトで模倣品・互換品の情報を見る。 被害が出ているメーカーは、たいてい自社サイトで注意喚起を出しています。「(メーカー名) 模倣品」で検索すれば見つかります。
- そのメーカーがどこで売っているかを確認する。 直販に限定している商品なら、通販サイトに並んでいる時点でおかしい。これが一番確実でした。
- 販売元と出荷元を見る。 Amazon なら販売元が Amazon.co.jp か、メーカーの公式ストアか、名の知れた家電量販店か。楽天なら店舗そのものを見る。
- 「正規品」「純正品」の文字を信用しない。 どちらの言葉も、誰にとっての正規品・純正品なのかまでは書いていません。
- 消耗品は公式の定期購入を使う。 買うたびに判断しなくて済みます。
※ 販売元が Amazon.co.jp なら絶対に安全、というわけではありません。 確率を上げる方法であって、保証ではないと考えておいた方がいいと思います。 直販に限定されている商品については、公式で買う以外に確実な方法はありません。
これは浄水カートリッジだけの話ではなかった
この件をきっかけに調べていくと、同じことが他のジャンルでも起きていました。 しかも、公的機関が注意喚起を出すほどの規模で。
電動工具の充電バッテリー
これはお金の問題では済んでいません。 製品評価技術基盤機構(NITE)は、電動工具用の非純正バッテリーパックが発火する 再現実験の映像を公開して注意を呼びかけています。 経済産業省が2024年に出した注意喚起の表題は、 「『低価格・高リスク』の非純正バッテリーに注意 〜建物が全焼に至った火災も〜」です。 マキタ自身も、非純正リチウムイオンバッテリの事故が急増しているとして告知を出しています。
浄水カートリッジとの違いは、失敗したときに何が起きるかです。 こちらは、気づかないまま使い続けた先に火災があります。
- 電動工具用非純正バッテリーパックから発火(NITE 製品評価技術基盤機構)
- 「低価格・高リスク」の非純正バッテリーに注意 〜建物が全焼に至った火災も〜(経済産業省、2024年6月27日/PDF)
- 「非純正」リチウムイオンバッテリの事故急増についてのお知らせ(マキタ)
SDカード・USBメモリ・SSD
こちらは容量の偽装です。国民生活センターが2025年7月に公表したテスト結果では、 約1TB と表示されたポータブルSSDに、実際に書き込めたのは 14.7GB でした。
たちが悪いのはその先です。この製品は、書き込めない部分についても ファイルが存在しているかのように表示していたと報告されています。 パソコンの画面上は、保存できたように見える。 壊れていることに気づくのは、そのデータが必要になったときです。
二次流通の高級酒
フリマアプリやオークションで取引される高級ウイスキーについても、 空き瓶に別の酒を詰めた偽造品の存在が業界から指摘されています。
※ こちらは公的機関の調査ではなく、業界関係者や買取事業者からの指摘です。 上の2つとは情報の確かさの度合いが違うため、そのつもりで読んでください。
狙われるものには共通点がある
並べてみると、性格がはっきりしていました。
- 小さくて送りやすい — 輸送コストがかからず、数を捌ける
- 単価が高い — 偽造したときの利幅が大きい
- 見た目で真贋が分からない — 並べて比べないと違いが出ない
- 買った人が性能を測れない — ここが決定的
最後の一つが、この問題の本体だと思います。 浄水カートリッジは、塩素が取れているかどうかを日常では測れません。 記憶メディアは、容量の上限まで書き込まないと分かりません。 バッテリーは、発火するまで分かりません。
買った人が自力で検証できないものほど、粗悪品が生き残ります。 悪いものが市場から消えるには、悪いと分かる必要がある。 分からなければ、売れ続けます。
最後に
私が失ったのは6千円と、何か月分かの「浄水しているつもり」でした。 金額としては小さな話です。
ただ、それが口に入るものだったこと、そして 自分では最後まで気づけなかったことを考えると、笑い話にはできませんでした。 浄水器を付けていたのに、していない水を飲んでいた。 しかもその事実に、テレビCMを見るまでたどり着けなかった。
同じ状態の人は、たぶんまだたくさんいます。 推計60万個という数字は、そういう数字です。
LIXIL の社名は、同社および消費者庁が公表している注意喚起を出典として示したうえで記載しています。 一方で、私が実際に購入した出品者名や、互換品を製造しているメーカー名は伏せています。 特定の事業者を告発することが目的ではないためです。 詳しくはこのサイトについてをご覧ください。